ぼくは立川にあるダンボという店で最高のハンバーグとカニクリームコロッケに出会った。
同じ時代に生きて、それを体験できたことに驚いている。
店の外観や内装は、人々の落ち着きどころがない思い出たちさえも寄りつくのをやめたような、多くのものの不在による空白を旨としていた(虚しさがすりきれて何も無くなってしまったのだとぼくは思った)。
店を長年続けてきたであろうひっそりとした老夫婦の笑顔も、その空白を否定することはできないようだった。
たくさんの音を立てて、おじいさんはハンバーグやら白身魚のフライやらを作っていたけれど、それでも。
ぼくはそこでハンバーグとカニクリームコロッケを食べた。
ハンバーグは肉汁が染み出すというものではなく、しっかりと固められた肉に強めの香辛料と塩分が輪郭を作っていた。
そして、そこにかかるデミグラスソースがぼくの愛を引き出した。色が白く目が細い、一見すると美人というわけではないが、目をそらすことができない、そんな女性を想像させた。場におけるバランスの取り方、あるいは配置のされ方に真実があったのだと思う。
そして、カニクリームコロッケについては、ただいまこの時に思い浮かべると、体の中の大切な部分が沸き立つ。そして、涙が出てくる。
ぼくが先にデミグラスソースのことを語ったとき、多くの表現されたものがそうであるように、受け手であるぼくの存在がそのすばらしさに対して一定の位置を占めていたと言える。
しかし、このカニクリームコロッケは、ぼくの存在を必要としていなかった。
誰も食べてくれなくてよかったのだ!
エデンの園が、ぼくには空白に見えていたということかもしれないのだ。
クリームにはカニのコクというコクが詰め込まれていた。厚めに、そして少々硬めに揚げられた衣は、ほっくりではなく、ボッくりともいうべき食感で、このクリームのセンセーションを倍増させていた。
ぼくは、きっといつもカニよりこのカニクリームコロッケを食べたい。
店の入り口に背番号55番・松井のサインが貼ってあった。
店の名前はダンボだが、松井は「サンボさんへ」と書いていた。
彼もまた虚無と真実の狭間に食事時を過ごしたのかもしれない。
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