2013年9月12日木曜日

バンビについて


ぼくは立川にあるダンボという店で最高のハンバーグとカニクリームコロッケに出会った。
同じ時代に生きて、それを体験できたことに驚いている。

店の外観や内装は、人々の落ち着きどころがない思い出たちさえも寄りつくのをやめたような、多くのものの不在による空白を旨としていた(虚しさがすりきれて何も無くなってしまったのだとぼくは思った)。
店を長年続けてきたであろうひっそりとした老夫婦の笑顔も、その空白を否定することはできないようだった。
たくさんの音を立てて、おじいさんはハンバーグやら白身魚のフライやらを作っていたけれど、それでも。

ぼくはそこでハンバーグとカニクリームコロッケを食べた。

ハンバーグは肉汁が染み出すというものではなく、しっかりと固められた肉に強めの香辛料と塩分が輪郭を作っていた。
そして、そこにかかるデミグラスソースがぼくの愛を引き出した。色が白く目が細い、一見すると美人というわけではないが、目をそらすことができない、そんな女性を想像させた。場におけるバランスの取り方、あるいは配置のされ方に真実があったのだと思う。

そして、カニクリームコロッケについては、ただいまこの時に思い浮かべると、体の中の大切な部分が沸き立つ。そして、涙が出てくる。

ぼくが先にデミグラスソースのことを語ったとき、多くの表現されたものがそうであるように、受け手であるぼくの存在がそのすばらしさに対して一定の位置を占めていたと言える。
しかし、このカニクリームコロッケは、ぼくの存在を必要としていなかった。
誰も食べてくれなくてよかったのだ!
エデンの園が、ぼくには空白に見えていたということかもしれないのだ。

クリームにはカニのコクというコクが詰め込まれていた。厚めに、そして少々硬めに揚げられた衣は、ほっくりではなく、ボッくりともいうべき食感で、このクリームのセンセーションを倍増させていた。
ぼくは、きっといつもカニよりこのカニクリームコロッケを食べたい。


店の入り口に背番号55番・松井のサインが貼ってあった。
店の名前はダンボだが、松井は「サンボさんへ」と書いていた。
彼もまた虚無と真実の狭間に食事時を過ごしたのかもしれない。

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2013年8月4日日曜日

ガングロちゃん



触れる

大きな木をくり抜いて作ったぼくの家には誰もいなかった

ぼくは透明になった

木からは水蒸気が上がり、あたりに消えた
水蒸気があったことが、あたりの透明な層のひとつに残った

大きな剣でそこを切ったならば、水蒸気の記憶と一緒にたくさんの涙がでてくることだろう
流せなかった涙が透明な層に含まれている

大きな剣が地上につき立って、無言の痛みを生み出している頃、美しい小さな鳥と舌を絡ませ合うことを思う

また水蒸気が出される
あたりに消える
涙がとどめられる

大声をあげて泣くんだ

ぼくはガングロちゃんと鉱脈をさかのぼる旅に出る

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2013年5月28日火曜日

恋心へ精神分析的な口上



師は、沸き立ちあがる人生の意思に従うことが魂に刻印された使命を全うする方法であるという。
別の師は、自分の望むことは神にも逆らう覚悟が必要であるという。

一人だけ正論を説き続けるローマの評議員は、まだキリストを知らなかった。

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2013年5月23日木曜日

2013年5月20日月曜日

記録15

Discography :
quizmaster002, July 2004 (EP)
the united forces, April 2004 (Single)
the united forces CD2, October 2004 (Single)
the united forces 2005 Tokyo - Taipei,February 2005 (台湾限定EP) 
新しい国/鼠, May 2005 (Single)
quizmasterの偉大な建築, March 2006 (Album)
家出少年 runaway boy, August 2007 (Album) 
アイコンガールピストルズ・その男、裏表アリ, July(Single)

記録14


quizmaster presents "1976 Japan Tour Final"に寄せて


2005年の2月、7月と2回、quizmasterは台湾ツアーを敢行した。
その全行程をホストとして迎え、サポートしてくれたのが、台湾最高ロックバンド
「1976」である。

本年をもって結成10周年を迎える彼等は、台湾のインディシーンにおいては既に
広く知られた存在で、台北のレコードショップに於いてはメジャーアーティストに遜色ない程の扱いがなされており、台湾における主要なロックフェスティバルの殆どに登場する等、学生を中心とした若者層からの圧倒的な支持を受けている。

80、90年代の英国音楽からの強い影響を受けた彼等のそのサウンドは、風船の如く色鮮やかに弾むようであり、しかし決して舞い上がって人を見下したりはしない。4人の細身の青年がステージでみせる存在感は、等身大の様でありながらも特別であり、キラキラと輝いて見えるくらい純粋な情熱に満ちあふれている。

今回の企画は、そんな1976が行う来日ツアーの最終公演にあたる。
出演は、昨年のquizmaster台湾ツアーに同行した長谷川俊、金光朗之を含めた計4組。
そして、この公演が行われる2月28日は、近現代史上台湾人にとっての重要な意味を持った1日でもある。おそらく彼等も、僕達がどうしてこの日を選んだのか、その意図を分かってくれているに違い無い。自国の政治に対しても積極的な興味を持つ彼等台湾人。そんな彼等の招待で僕らが立った昨年2月28日の台湾のステージ。
忘れる事の出来ない想い出をくれた彼等への、せめてものお礼だといえるのかも知れない。

ともあれ、音楽である。この日会場を満たすのはきっと、みずみずしい幸福である。
台湾を訪れた僕達が感じた、祝祭のようなムードの、その一端だけでも、この日本で再現することができれば、この企画には意味があったと言えるだろう。
さらに、会場には1976及びquizmasterのアルバムジャケットを手掛ける台湾人デザイナー、DIZZYの作品が1部ではあるが展示される予定である。彼の作品もまた、人生を愉快にさせくれる素敵なメッセージに満ちているので、その辺りも楽しみだ。

アジア諸外国の音楽シーンに興味のある方、リアルな台湾のアートシーンを感じたい方、そして今最も注目を集めている、台湾の若者の文化を味わいたい方、是非ともこのイベントに足を運んで頂きたい。1976が聞かせてくれる純粋なロックミュージックが、少しだけ億劫な僕らの足を、新しい国へと踏み出させるはずだ。